96年度情勢報告


はじめに


(1)95年はどういう年だったか
それは,90年代前半の激動の時代から,新たな国際政治のありようが徐々に形作られてきた年といえるでしょう.つまり新たな戦略や構想が提起されたというよりそれが実施に移され,具体的な姿がある程度目に見えるようになってきたといえます.
それはまず第一に,ナイ・イニシアチブと米国防総省による一連の地域安全保障戦略です.それは軍事力を中核におく米国の世界単一支配のシステムです.
第二には,世界経済システムとしてのウルグアイ・ラウンドとWTOです.
第三には,大国中心の核兵器管理システムとしてのNPTです.
これらのグローバルな戦略と並んで,地域的なサブシステムが形成されつつあることも95年の特徴になっています.とりわけ東アジアのAPECによる包摂,そして日米安保によるアジア覇権の確立が今日の最大の特徴となっています.
(2)国連=ガリ構想の挫折
支配システムの新たな確立と反比例するかのように,残念ながら,人民の戦いの展望はますます不透明になっているといわざるを得ません.それはまず国連の動向にはっきりと示されました.
PKO作戦に相次いで失敗したガリ総長はこう述べました.「安保理と事務総長には,平和に対する脅威・破壊及び侵略に対する作戦を展開し,指導し,指揮し,管理する能力は,ごく限られた規模のものの他は,持ち合わせていない」と.
こうして国連が米ソに代わって世界の安全保障の主役となるという思惑は,わずか数年で惨めな終焉を迎えました.彼はソ連東欧崩壊後の一瞬,国連が,ひいては自分が,世界の平和の担い手になるのではないかと錯覚しました.そしてそのために奮闘しました.彼は国連の権力を強化するためには悪魔とでも取引しました.彼は力の源を常任理事国や一部の大国に求めました.カンボジア,湾岸戦争,ソマリア,旧ユーゴなど,彼の総会軽視と強国へのすりより路線は露骨でした.
米国はこの傾向を最大限に利用しました.国連についてクリントンがどう評価し発言して来たかは,これまでの総会報告でも触れてきました.米国の態度は一貫しています.利用できるときは利用し,利用できないときは無視するということです.「国連による平和実現」の路線は結局,米国の世界支配の確立に向けつゆ払いの役割を果たしただけということになりました.
今年開かれた国連憲章50周年記念式典で,ガリ事務総長は環境や麻薬など新しい問題に対応できるよう国連を変革するべきと主張します.彼はなお国連のヘゲモニーに執着しています.国際紛争の人道的援助でNGOとの協力関係を強化する一方、「今後は多国籍企業も参加できるような組織に国連を変革していく必要がある」と主張します.かつて国連が大国の道具となるように道を清めたガリは,今度は多国籍企業にも大きく門戸を明けようとしています.
しかしもはやガリ総長と「彼の国連」は大国にとって利用価値を失っています.ガリのいうことなどくそくらえです.
同じ総会でクリストファー米国務長官は冷たく言い放ちます.「国連改革」の目標は、国連がリーダーシップを発揮して貧困や環境破壊など諸問題の解決に当たるのではなく「自由貿易社会」を擁護することにある.国連はリストラされなくてはならない.さしあたりWHO(世界保健機関),UNDP(国連開発画),UNIDO(国連工業開発機構)などは段階的に廃止されるべきである.その他ILO(国際労働機関),FAO(国連食料農業機関)も見直しの対象となる.その一方国連は世界銀行など国際金融機関との協力を強化し、民間部門をもと拡大しなければならない.このように米国は国連に指図するのです.ここまで国連をなめさせたのは,あげてガリの責任です.
キューバのカストロ議長が非同盟首脳会議で述べたように「安保理が世界の覇権大国の意思を押し付け、世界を屈服させる機関として利用されている.…特別の権限を持った一つの国が、国連加盟国の意思や決定を無効にしてしまう不合理に終止符を打」たなければなりません.そのためには安保理常任理事国枠の拡大や,多国籍企業の参入などという制度いじりではいけません.そのような路線がどのような結果を生むかは,この間の経過を見ればあまりにも明らかです.もう一度総会中心の国連運営に戻し,すべての国が平等な立場で参加する国連を作り上げていくことです.

(3)非同盟諸国首脳会議など
非同盟首脳会議がコロンビアで開催されました.三ヵ国は113カ国と過去最高でしたが,内容的には低迷を抜け出すことはできませんでした.
今度の会議でも各国の中心的な議論となったのは対外債務の問題でした.アフリカ大陸では輸出収入の19%(3200億ドル)が利子の支払に当てられています.エチオピア・セユム首相は「工業国が原材料の価格と生産の両方を支配しており、背負い切れない巨大重荷が我々の国に、深刻な否定的インパクトを与えている」と報告.その責任がIMFと世界銀行にあると批判しました.                              三大陸人民連帯会議30周年を迎え,ハバナで開催された人民連帯会議も,参加する諸国の間に共通する目標を持てないまま閉会となりました.
北京で開催された国際婦人会議は,あらゆる差別とともに性による差別撤廃を求める大きなうねりを作り出すものと期待されましたが,途上国との不毛の対立が拡大する結果となり,中国政府の反民主主義の姿勢だけがむなしく浮き彫りとなりました.今日の世界においては,政治,経済における覇権主義との闘いなしに人権や差別撤廃の展望は開けません.そのことが改めて確認されたといえます.

(4)国連社会開発サミットが投げかけたもの
一連の国際会議のなかで,それなりに進歩的な成果を上げたのが,国連社会開発サミットでした.この会議については昨年度報告のなかでもプレレミナリーに触れていますが,今回は内容もふくめ紹介します.
一部で「貧困サミット」とも呼ばれたこのサミット会議は,95年3月にコペンハーゲンで開催されました.この会議には118人の首脳を含む187カ国の政府代表が参加,規模のうえからはサミットと呼ばれるにふさわしいものとなりました.
・会議の基本的な問題意識
会議の基本的な問題意識は,地球上にはびこる貧困をどう克服するかということでした.そしてそのための政策的柱として1社会的統合の強化(人種や性による差別の撤廃),2貧困の緩和と軽減,3生産的雇用の拡大をあげ,それらを社会開発計画と総称しています.
このような問題意識の背景は,まずなによりも死にいたるまでの徹底した貧しさです.世界の人口の5人に一人,10億人以上が毎日飢えているといわれます.自由主義経済の旗振り役の世界銀行ですら「1日1ドル以下で生活せざるを得ない人は,90年にはほぼ2億人だったが,10年後には13億人に達する見込み」と認めています.
94年度に世界で死亡した5千万人のうち,1/3が伝染病や寄生虫疾患によるものでした.WHOはその真の死因は貧困だといっています.
さらに世界中の1億2千万人以上の人々が公式に失業しており,それ以上の人が半失業状態にあるとされます.ILOは「世界の労働者の3割に当たる8億2千万人が失業または半失業状態にあり,これは30年代の大恐慌以来最悪の水準である」と報告しています.
このほか相次ぐ内戦などにより,世界中で数百万人の人が難民または国内避難民となっています.
・IMF路線批判
会議は「貧困を一掃し社会開発とすべての人々の幸福を追求することが21世紀に向けてもっとも優先すべき目標」と位置づけました.そして市場経済の「失敗」を指摘し,公共政策の必要を確認しました.
社会開発サミットはさらに踏み込んで,この種の会議としては初めてIMF・世銀の市場万能論を批判しました.その具体的根拠として,この間の構造調整政策の結果,多国籍企業の横暴が助長されたこと,旧ソ連・東欧諸国でIMF路線の忠実な実施が深刻な社会混乱をもたらしたこと,先進国においてもIMF路線は深刻な失業者の増加と経済の停滞をもたらしたこと,などをあげています.
会議での発言のなかでノルウェーのブルントランド首相は「市場は平等と社会正義の促進にほとんど役立たず,持続可能な開発に向けた共通の必要に対して,市場は応えない」と厳しく批判を加えています.
会議は,IMFの構造調整計画は弱者に与える影響について特段の注意をはらうべきであり,人々の福祉向上のための社会開発目標を含むべきであると提起しました.そして,計画の実施に当たってはIMFが独走することなく国連諸機関とりわけ経済社会理事会との連携を強めるようもとめました.
途上国債務は1兆4千億ドルに達し,債務国はIMFの厳しい条件のもと返済に追われています.社会開発に当てる予算どころか,毎日の社会生活に必要な資金すらカットされている状況です.今回のサミットでも途上国から債務帳消しの強い要求が出されましたが,受け入れらませんでした.
サミットはウルグアイラウンドの与える否定的影響についても指摘し,IMF=GATT路線が農業破壊の危険をもたらすこと,特にそれは最貧国において深刻にならざるを得ないと警告しました.しかし先進国からの圧力の結果,全体としてはウ・ラウンドを支持する論調でまとめられており,NGOからは強い批判があがりました.WTOについては後述します.
・人間の安全保障
サミットの提起した問題のなかで,もっとも印象的なのが,一般民衆にとって「安全保障」とはなにか,ということです.
「人間開発報告」は次のように述べています.
*これまで国家の安全保障が国民の安全保障よりも重視されてきた.政治家は「国民の福祉や生活の維持は国家の仕事ではなく各人に任されたもの.国家の真の任務は国家の安全保障のみ」と言ってきた.しかし最近起きたさまざまな出来事を通じてわれわれは学んだ.国家の真の平和は,国家ではなく国民の安全保障に基づいているということを.
*これから頻発するのは,国家間の紛争よりもむしろ内戦であろう.明らかなことだが,内戦は社会経済的な格差と貧困に深く根ざしている.人々が安全な日常生活を送ることが出来なければ,平和な世界を実現することは出来ない.いまこそ安全保障という考えを,国家という狭い枠から「人間の安全保障」という包括的なものに移すべきである.
*「国民の安全保障」をすすめていくのに必要なのは,軍備ではなく社会開発だ.社会経済的にみてもっとも生産的な投資とは,さまざまな人間の能力,機会を最大限に生かすような投資であると,われわれは確認する.

この報告は根本的な問いかけを含んでいます.それは,国家の主要な任務とはなにか?,という問いかけです.
サミットでは具体的な解決の方向はほとんど合意できませんでした.それにもかかわらずこの会議は決して無駄ではありませんでした.その問題提起と行動計画の枠組みは,今日の情勢に照らしてみて貴重なものといえます.

(5)世界の人民連帯のキーポイント
このように,米国による世界単一支配の構図がますます明らかになりつつある今,われわれも世界の人民が団結し連帯するためのキーポイントを定める必要があります.
かつてAALA人民連帯運動の基礎はバンドン精神にあり,あるいは非同盟運動にありました.そこでは世界の人民の共同の敵としてアメリカ帝国主義と新旧の植民地主義が糾弾されていました.そして世界人民の共同のスローガンとして民族自決,国家主権の尊重,国家間紛争の平和的解決,非核平和,経済新秩序,国連中心主義(特に国連総会)などが謳われていました.
今日人民の戦いを抑圧するものは,帝国主義や植民地主義などに限らず,社会主義を標榜したり,特定の人種や宗教を背景にしたりと,複雑で多様になっています.このような他国,他民族,他人種を抑圧しようとするいっさいの傾向は,今日覇権主義と呼ばれるようになっています.
それでは,複雑で多様化した覇権主義の攻撃に対し,これまでの民族自決とか国家主権の尊重,経済新秩序などの要求がもう古くさいものになってしまったのでしょうか.そうではありません.これらの要求は,とりわけ発展途上国においては,これまで以上に緊急かつ根本的な要求となりつつあります.
これらの課題においては,先進国の労働者や市民の運動と民族解放運動とが強い連帯を結ぶことが出来ます.たとえばウルグアイ・ラウンドを巡る各国の戦い,米軍の進出に反対する東アジア各国の戦いなどがそうです.
先進国の市民運動が,人権や環境,人道主義などを声高に叫ぶとき,発展途上国は沈黙します.それらの課題の究極的重要性は理解しつつも,基本的にはそれらは各々の国家の歴史的発展に規定されるべき問題だからです.たしかにその国で基本的人権がどのように実現されているかは,その国の政治を評価するうえでの決定的な分水嶺ではあります.しかし,今は情勢を発展的にみなければならないときです.
先進国と発展途上国とを問わず,世界を支配するアメリカ覇権主義との間にこそ,情勢の決定的な分岐点があり,人権問題や環境問題もこれらとの文脈において評価しなければなりません.
湾岸戦争以来,ガリ国連戦略を巡り人道主義と国家主権のありようをめぐり混乱が続いてきました.この問題に関しては「前衛」96年2月号の論文,浅井基文「人道の名で国家主権は制限できるか」を是非読んでください.大胆な提起なだけに,そのすべてが手交できるものではありませんが,一つの本質をついた鋭い問題意識だと思います.

アメリカ帝国主義の新戦略と東アジア

(1)日米安保の極東安保化
4月17日,来日したクリントン大統領と橋本首相との間で「日米安保共同宣言」が発表されました.事実上の安保再改訂です.この宣言は三つの柱からなっています.
1,まず極東概念が東南アジアまでふくめて大幅に拡大されたことです.これにより,沖縄と韓国に駐留する米軍10万が,東アジア全域にそのプレゼンスを保障されることとなりました.それは米国が東アジアに覇権を維持するための保障となっています.
2,有事体制の確立にむけ画期的な一段階を踏み出したことです.具体的には日米物品・役務相互提供協定(ACSA)による軍事協力の強化です.ACSAについては昨年のフィリピン情勢のところで触れましたが,その効果たるや基地を持つことと等しいものがあります.これまでの思いやり措置とPKO派遣に加え,ACSAが実現することで,日本は米軍の行動に対して後方支援の責務を負うことになります.その行動が日本にとって防衛的であると否とを問わずです.
3,沖縄問題への一定の対応がはかられていますが,それは決して基地の縮小再編ではありません.むしろこれを逆バネに米軍基地の再編強化を図ろうとしているのです.

(2)ナイ・イニシアチブ
米国側の安保再定義にかける狙いはすでに明らかになっています.昨年の大会報告で触れた,アジア担当国防次官補ナイの報告です.
ナイの肩書きはアジア担当国防次官補にすぎませんが,彼は元々ハーバード大学教授として各種の政策シンクタンクに参画し,米国内反動勢力の理論的支柱をなす人物です.彼の報告は90年代におけるアメリカ帝国主義の基本戦略となるものと考えられます.報告の柱を列挙すれば次のようになります.
1,東アジアこそ次世紀に向けて世界の中心的柱となると予測.
2,米国の東アジアでのリーダーシップを堅持する.他国の国家主権をグロ ーバルなリーダーシップに従属させる.
3,日本とのパートナーシップをキイポイントとする
4,米国の力の究極の源を軍事力に求める
これを軍事戦略として展開すると
5,核兵器を引き続き維持しつつ,拡散抑止に最大の努力をはかる.
6,他国に対しACSAとアクセス権を迫り,軍事的プレゼンスを財政的に 支える.
まさしく,ナイ構想こそがその後の米国の政策そのものであることがわかります.諸国家の自立を尊重することは眼中にない,究極の覇権主義であり山口組の論理といえます.

(3)国防総省報告
これについで「東アジア・太平洋地域の安全保障に関する国防総省報告  '95」が発表されました.これまでの国防報告からみるときわめて異例な文章です.そこでは軍事覇権主義一辺倒から,経済までふくめた全一的覇権主義への転換が際だっています.国防というより商務長官の報告のようです.
少しポイントを引用してみましょう.
1,アジア・太平洋地域は現在,世界でもっとも経済的にダイナミックな地域である.その成長は中産階級と大きな新消費者人口を生み出した.
2,70年代以降,アジア地域への米国の輸出はヨーロッパ共同体の2倍の早さで増大した.米国の対アジア貿易は全貿易額の36%を越えている.こうした傾向のすべてから,アジアは米国にとってますます重要な市場になることは確実である.
3,そのことだけからも,アジアの安全保障はアメリカの将来にとって死活的である.覇権主義的大国(中国のこと)あるいはその連合(ベトナムとインドシナ三国のこと)が発生し,安全保障上の不確実性が出現するのは好ましいことではない.われわれがアジアの成長と繁栄から利益を得るためには,経済,外交,軍事の面で全面的に関与していかなければならない.
この報告を見てなによりも印象的なのは,アメリカ軍が自己の存在する意義を根本的に変えたことです.「自由主義体制を守る」崇高な役割は完全に捨て去られました.そして徹底的に自国のみの利益を保護する「用心棒集団」として自らを再定義したのです.もっとも国防報告は「軍事的プレゼンスが,経済・通商上も役に立つのだ」と訴え,よってもって国防族の生き残りをはかるための国内向け宣伝という側面も持っているのですが.
4,そのうえで彼らは日米関係が最も重要であると強調します.「それは太平洋安全保障にとってだけでなく,我々の地球的規模の戦略目標にとっても必須のものである.日米安保条約はアジアにおける安全保障政策の要である」
どうですか.安保の再定義は実は米軍の自己再定義によって規定されているのではないでしょうか.

(4)第二回アジア地域フォーラム(ARF)
米国の新しい戦略に沿った最初の外交展開が,第二回アジア地域フォーラムでした.会議に出席したリストファー米国務長官は,・アジア太平洋地域に「直ちに軍事的脅威となるような大国は存在しない」、・しかし脅威となる国が出現する危惧はある,・したがって軍事的,政治的安定のため米軍の存在意義は大きい,・ゆえに米軍はこの地域に存在し続けなければならない,と述べました.
クリストファーは「アジアへの関与は、米軍の安全と繁栄にとっても不可欠だ」とし、以上の論理のうえに米軍の前面展開戦略を主張します.内容としては・日米軍事同盟を基盤に「10万人規模の米軍をおき続ける」,・条約上の非同盟国に対しても軍事協力に関する「アクセス協定」を通じ米軍の前面展開を保証,・冷戦時代の敵対国とも連携を追及していくと述べました.そしてその戦略を支える機構としてARFの重要性を強調しました.要するに「平和のためのパートナーシップ」アジア版です.   
米国務長官は米軍の前面展開と、米国資本の利益拡大につながるASEAN地域での金融市場の自由化などの政策を要求.同じ日,ASEAN首脳とのあいだで行われた個別会談で同長官は東アジア戦略をさらに具体的に提示します.すなわち・「条約上の同盟国」である日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリア5ヵ国との関係を継続し、・タイとの軍事演習、・フィリピンとの軍対軍の関係再開、・米国艦船の基地利用を認めるアクセス協定の締結などです.
このようなAPECの安保機構化をねらう米国の動きに対して,当然のことながら東南アジア各国を中心に強い警戒感が表明されました.マレーシア首相マハティール、フィリピン下院議長がクリストファー発言に対し反対の意を表明しています.
クリストファーが押しつけようとした内容は,軍事的な面だけにとどまりません.彼は米国のASEAN向け貿易が840億ドルに達したことをとらえ、近年中に1000億ドルを超えることを期待するとともに,1.知的所有権法の確立,2.金融市場の自由化,3.インフラの整備,4.公正な競争の推進を迫りました.
脆弱な産業基盤,慢性的な貿易赤字,遅れた農業生産性などに悩むASEAN諸国は,急激な市場開放には消極的とならざるを得ません.そこを無理やり力づくでこじ開けようというのが,最近の米国のやり方です.2020年までにで貿易と投資の自由化を決めたボゴール・ビジョンを早急に具体化することを認めさせました.

(5)アジア以外の地域での米戦略
・中東戦略
東アジア戦略に引き続き,国防総省の地域別戦略が次々と発表されました.中東戦略では・平時と戦時の軍事関与,・米軍の前進配備,・迅速対応が柱に据えられました.この数年間,中東ほど米国の支配戦略が展開された地域はありません.湾岸戦争後はペルシャ湾岸に2万の米軍が常駐し,完全に支配権を掌握しています.この間中東18カ国中11カ国で米軍のアクセス権が認められるようになりました.パレスチナ和平過程についてもすべてを自らの管理下においています.こうして米国はみずから生命線と称する中東地域に直接的支配権を確立することになったのです.
・ヨーロッパ戦略
ついで6月には「米国の欧州NATO安全保障戦略」が発表されました.ここでは・米軍にかわる戦力としてNATOを強化すること,・ロシアとの協力関係を維持すること,・この二つを前提として全欧安保協力機構を結成,強化すること,・これらの関係にすべてを託すのではなく,同盟国との二国間関係を引き続き維持すること,・引き続き欧州に核兵器を配備し,これによって米国のヘゲモニーを維持すること,などを柱にしています.
西ヨーロッパの米軍は最大時の30万から10万まで削減されることになりました.すなわち海外駐留米軍はヨーロッパ10万,アジア(といっても実体はほとんどが日本,とりわけ沖縄)10万という布陣になるわけです.
・NATOの戦略
さまざまな軍事同盟のなかで,NATOのみは米国に対する一定の自主性を維持し,独自の戦略体系を打ち出しています.もっともこの戦略も大筋では米国の世界戦略に一致したものであり,とりわけ米国の核抑止力に戦略の根幹を依存している点では,米戦略と同一と見てよいでしょう.
NATOはソ連崩壊後の情勢にあわせ,・旧ソ連、東欧諸国も取り込んだ軍事戦略の再構築、・NATO軍の再編統合を目標に設定しています. そのためNATOと東欧諸国との軍事協力の具体化である「平和のためのパートナーシップ」協定(PFP)の拡大が最大の狙いとなっています.現在 26ヶ国が同協定に参加、合同演習の増加や、PFP地位協定の完成、PFP財政政策の策定などがすすんでいます.ただし、東欧諸国の早期同盟化目指す米国と、段階的加盟を主張する西欧諸国とのあいだに若干の食い違いがあります.またロシアはPFP協定 を受け入れるとともに、「PFPの関係を超えたロシアとNATOの対話」を提案しています.
NATO再編に関しては,独仏など5ヵ国が欧州合同軍をすでに創設.ボスニア紛争はドイツ軍の国外進出をふくめ,格好の演習の場となっています.注目すべきは,地中海条約軍ともいうべきWEUの創設です.仏、伊、ポルトガル、スペインの陸海軍部隊の共同からなるこの機構は,北アフリカのイスラム急進勢力や民族紛争、核の拡散などを「共通の脅威」とみなして,平和維持活動、人道援助、対テロ軍事作戦などを展開しようとしています.どのような口実であれ,ヨーロッパ資本が北アフリカに進出するにあたって,有力な軍事的後ろ盾となるのは間違いないところでしょう.
独仏が同同盟をEUの防衛組織として位置付けるのに対し、英はNATOの枠組みに同同盟が入ることを強調.94年のNATO首脳会議では、WEUはNATOを補完するものとされました.


        
核兵器不拡散条約(NPT)の動向

(1)NPT調印にいたる経過
去年の5月,ニューヨークで核兵器不拡散条約(NPT)締約国会議が開催されました.
非同盟諸国は,核保有国の優位を固定化するだけで,核廃絶の道につながらないこの条約に批判的な態度を表明しました.特に核保有国の核を使った恫喝を押さえるために,非核国への核兵器による威嚇および使用の禁止が確約されることを条約批准の根本条件として主張しました.そしてその目的を実現するためには,核兵器の先制使用を禁止する条約を同時制定すべきと主張しました.
これにたいし米国や日本などは無条件の無期限延長を主張し,非同盟諸国への個別工作や切り崩しにより条約の締結に漕ぎ着けました.
米国が条約締結のための条件として持ち出したのが1.96年までの包括的核実験禁止条約(CTBT)交渉終結,2.兵器用核分裂物質生産禁止条約の交渉早期開始・終結です.非同盟諸国が要求していた核兵器廃絶の期限は,結局明記されませんでした.
ところで包括的核実験禁止条約という名前だけ聞くと,いかにも素晴らしい条約のようですが,これも精神は核拡散防止条約と同じです.核保有国の間にある核兵器の性能の差を固定し,米国の絶対的優越性を未来永劫保障しようというものです.
とにかく,米国自身が核の廃絶に向かわないことには,あれこれの条約は実効性を持ちえません.米国が受け入れられるような内容の条約をいくら作っても,逆に米国の核による覇権を強化することにしかなりません.

(2)米国の核脅迫政策
米国は核の威嚇をやめるつもりはまったくありません.
9月発行された米核問題専門紙「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンチスト」によると、米国はロシアが国外の核兵器配備をやめたあとも、独、英、伊、トルコ、オランダ、ギリシャ、ベルギーの空軍基地に合計480発の核兵器を貯蔵しています.その他弾道ミサイル搭載潜水艦に1536発もの核兵器を配備しているといわれます.湾岸戦争では実際に核兵器を前線配備しました.米海軍艦艇700発、駐トルコ米軍基地内300発の核兵器が配備されました. イラクの出方次第ではこれらの核兵器が実際に使用される可能性が大いにあったのです. 10月になると,グリーンピースが米軍の新型核兵器開発を暴露しました.ミクロ・ニューヨーク(TNT10トン/暫豪破壊)、ミニニューヨーク(同100トン/弾道弾対抗)、タイニー・ニューヨーク(同1000トン/戦場で使用)、特殊弾道爆弾など超小型の戦術核が,北朝鮮、イラン、イラク、リビアなどにおける使用を想定して開発されているとのことです.
さらにこの報道を追いかけるように,オレアリ米エネルギー長官が「核爆発なき核実験」を96年6月から実施する予定であることを明らかにしました。これでCTBTをクリアできれば,まさに鬼に金棒です.
核兵器は,たとえどの国のものであろうと,同じように破壊的影響をもたらします.しかし米国の覇権主義と結びついたその核の危険性は,他の国の核とは比べものにならないものがあります.その米国の手を縛り,核廃絶に向かって一歩でも前進するためには,核の脅威を米国の覇権主義と結びつけながら抗議していく闘いがどうしても必要です.国際連帯の大きな課題として,今後とも追求していきましょう.

WTOの行方

(1)世界貿易機構の創設とその影響
95年には,WTO反対の運動が各国で盛り上がりました.この運動の特徴は発展途上国ばかりでなく,先進国でも大きな闘いとなっていることです.世界が自由に貿易でき,お互いに潤うのなら,それは結構なことです.しかし一部の勢力をのぞいてすべてが反対を唱えるのはなぜかと言えば,世界自由貿易の推進を謳いながら,実は米国と多国籍企業のためになることしか行わないからです.
WTOも,その前身となるガット体制も,米国のコントロールのもとに作られたものです.戦後米国が資本主義社会を支配するようになりました.米国のもとでの世界単一市場を形成するのが,ガットの狙いでした.それは社会主義経済に対抗し,市場主義経済を守ることを目的としていました.しかし社会主義世界の崩壊と米国の経済,財政危機が同時に進行するなかで,パックス・アメリカーナとよばれた戦後経済体制は守られなくなりました.米国はこれまでの盟主としてのポーズをかなぐり捨てて,ひたすら露骨に自国に有利な貿易関係を作り出そうとしています.

(2)WTOにかけたアメリカの狙い
ウルグアイ・ラウンド交渉での米国の態度は,自分の得意な分野での市場開放を迫るねらいがあからさまでした.具体的にはアグリ・ビジネスを背景にした農産物自由化です.その狙いは自国の農産物の売り込みと多国籍企業による農業支配にあります.他国が農業保護をおこなえば,WTOによる懲罰を覚悟しなければなりません.消費者保護のために食品安全基準を定めれば,それは非関税障壁と認定されてしまいます.
米国が得意なもう一つの分野,ハイテク関連では知的所有権をテコとした支配を強めています.こうして発展途上国を食料,技術,金融などあらゆる側面から縛り上げ自らの覇権のもとにおこうというのが,米国の狙いです.
発展途上国にとっては米国との全面的な従属関係のなかで農業の破壊,知的所有の事実上の禁止が押しつけられる結果となります.
これに対して米国が不利な分野,たとえば自動車や半導体などでは,WTOを無視し,二国間交渉でカタをつけようとしています.ずいぶんと自分勝手なやり方です.いうことをきかなければ単なる自国の法律にすぎないスーパー301条で対抗しようとするのですから,WTOもなにもあったものではありません.
WTOをすり抜けるもう一つの方法が,地域共同市場です.米国がメキシコ,カナダと組んで創設したNAFTAは,商品生産にあたり域内材料の使用を義務づけるローカル・コンテント法を設定して域外資本の進出を阻止しようとしています.米国は単独ではWTOに抵触しかねない,この一種の「非関税障壁」を,NAFTAを隠れ蓑にゴリ押ししようとしているのです.
(注)メキシコにしてみれば,小唄の文句ではないが「囲われて,おもちゃにされて,捨てられて」といったところです.去年またもやメキシコが経済危機に陥ったのも,小唄の文句そのままです.

(3)IMF/世銀の世界支配
NAFTAが前宣伝ほど雇用拡大に結び付かないばかりか,メキシコの金融不安を引き起こしたことで、米政府は頭を痛めています.といってもメキシコの立場やNAFTA全体の立場に立って考えているわけではなく,自国の資本をいかに守るかという悩みでしかありません.彼らが考えているのは,IMF・世界銀行にその国の行政いっさいを監督させることです.そのためにG7の同意を取り付けようと必死になっています.まったくひどい話です.
実はこの話には前例があるのです.IMFが、経済困難が続くハンガリーに対し福祉削減、賃上げ抑制など経済政策を命令する書簡を送っていたことが今年になって曝露されました.まさに国家主権の侵害であり,国家の債務奴隷化です.これが明らかになると,ハンガリー国民は「内政干渉」と猛反発しています。

(4)日本にとってのWTO
米国が介在しない諸国間関係,たとえばアジア諸国の農業関連産品と日本との関係については,別な分析も必要になります.しかしその際も,アジア諸国の農産物流通はアグリビジネスが支配していることを押さえて議論すべきでしょう.われわれの食卓に並ぶ食べ物が外国産であるから悪いのではなく,そのことを通じてわれわれの食料が米国資本に支配される状況が危険なのです.

(付)東アジアをどう見るか

(1)アジア戦略の歴史的背景
ところで米国の対外政策上,アジアは一貫してグレー・ゾーンでした.そもそもヨーロッパに対しては,モンロー・ドクトリンからこの方,孤立政策が基本であり,一方米州諸国に対しては一貫して盟主であり続けようとしてきました.例外的に第一次大戦の一時期,第二次大戦から米ソ対決の間についてはヨーロッパにコミットしてきましたが,その間も国内からはモンロー・ドクトリンの立場に戻れとの声が絶えませんでした.
アジアに対しては,このような明確なスタンスは打ち立てられていません.振り返れば19世紀半ば,米国は日本への進出をはかります.しかし当時の極東において英国の影響力は圧倒的であり,ロシアともどもとりあえずの進出を断念せざるを得ませんでした.米国は19世紀末には門戸開放を唱え,フィリピンを併合するなど一定の進出を果たしますが,主たる経済的関心は米州及び第一次大戦後の欧州に向けられ続けました.
第二次大戦後,欧州列強のアジアからの撤退,植民地諸国の独立という事態に直面した米国は,権力の空白を埋めるべく積極的にアジアに乗り出します.そこでの主要な動機はトルーマン・ドクトリンによる社会主義国家の封じ込めであり,中国,朝鮮,ベトナム独立の影響を最小限にくい止めることでした.
米ソ対決が冷たい戦争であったのはヨーロッパの話であり,アジアにおいては熱い戦争そのものでした.朝鮮戦争,ベトミンとフランスとの闘い,金門・馬祖の緊張,スカルノやシアヌークの中立的姿勢,マラヤやフィリピンでのいわゆる「共産主義ゲリラ」などが並行的に戦われました.
米国にとってアジアとは「共産主義に明け渡してはならない地域」であり,
グローバルな覇権を維持するためには経済的関心を度外視しても守らなければならない地域でした.アジアは市場ではなく戦場だったのです.
このような歴史的状況のなかで,アジアの反共諸国家が期待された役割は,多国籍企業の市場や資源供給ではなく,反共の防波堤としての存在そのものでした.反共政権維持のため,経済的効果を度外視した投資が行われました.たとえば韓国はベトナム戦争の期間を通じて約10億ドルの特需を獲得したと推定されています.かくて日本は中国や朝鮮人民の血を吸って肥え太り,韓国やASEAN諸国はベトナムやインドシナ人民の血を吸って肥え太ったのです.
(注)ASEANはもともと,米国に追従する東南アジア諸国が67年に結成した,反共・反ベト ナムの政治連合だった.

(2)東アジアにおける経済覇権の構造
ベトナムでの敗北後,米国は東アジア全体における覇権をいったん断念し,日韓からASEAN諸国にいたる親米国家を育成することでアジア防衛に代える方向に転換しました.これにより東アジア各国の政治的主権は相対的に安定したものとなりました.
ASEANは,ベトナム戦争終結に伴い経済協力機構に衣替えして活動開始.加盟各国は低賃金をバネに外資導入をはかり,6〜8%の高い成長を維持.輸出志向型の工業化に成功していきます.その背景には日米貿易摩擦がありました.
80年代を通して東アジア諸国は,日本資本の対米貿易の代替国(トロイの木馬)となっていきます.日米貿易のせめぎ合いの中で,繊維→自動車→半導体,という経過をたどりながら東アジア各国の産業は発展していきます.この間の経済発展のなかで,国家間関係や国内の政治構造に著しい変化が出現しています.その主な特徴は次のようになります.
1,日本を中心とする同心円的構造,中心から周辺に向かう資本の流れ.途上国内部での階層分化.韓国の五大財閥や香港の華僑資本は,すでにそれ自体がグローバルな資本となりつつあります.
2,開発独裁型政治権力,これと結びついた特権的資本家が多国籍企業と連携して産業開発を行う提携資本主義.同時に指摘しなければならないのは,これらと接触を保ちながら日本の資本を誘導する外務省=大使館の権力強化です.現地大使館は,膨大なODAなどを背景に,今や政治家や官僚のみならず政府機構そのもの,あるいは軍部までもその影響下におこうとしています.
3,米国=日本という経済枠組みの中での発展.一種のバイパス中継貿易.最終市場という側面からみれば,アジア資本は日本ではなく米国への従属を強めているといえます.注意しなければならないのは,これらの国は日本にとって単なる低賃金労働市場ではなく米国向け輸出産品の生産現場だということです.そうであれば日本は容易には技術移転を許さなかったでしょうし,賃金水準の向上を許さなかったでしょう.
4,これらの国においては国内市場はいぜんとして脆弱であり,インフラ整備も遅れています.原料,資本,技術,市場のすべてを外国に頼ったまま,工業化の道を突き進んでいます.したがって国内経済が発展するほど貿易赤字が拡大するという悪循環が発生するのは必然です.バブル崩壊以降,短期的には急激な円高による日本資本の海外逃避と,アジア諸国の相対的競争力の強化がすすみました.しかしこの好況は日本次第です.グローバル産業と化したかのように見える韓国の財閥でさえ,現実には日本資本への依存をますます強めています.いったん不況となれば深刻な貿易赤字と過剰生産,民族産業のあいつぐ倒産を招く危険をはらんでいます.

文章の先頭へもどる

H-AALA関連にもどる

ホームページへもどる