そのツアーの最後が岩手の盛岡であって、みんな長いツアーの最後だというわけで、コンサート前から異様な盛り上がりを見せていた。盛岡の近くに花巻温泉というところがあって打ち上げはそこにくり出してやろうじやないか。みんなタクシーに乗り、夜道をぶっ飛ばして旅館に着くやいなや、お風呂にとび込み、浴衣に着替え、乾杯というかけ声も待ちきれずドンチャン騒ぎが始まった。オフコースってのはあんまり酒を飲まない。小田(和正)さん、ヤスさん(鈴木康博)はすぐ顔が赤くなって、それはそれは、何とも悩ましい色っぽさ。ヒトシさん(清水仁)は、あれは勧め上手だな。「オイ! いこうや。ナニッ俺の酒が飲めんちゅうんか、コラッ、ボケッ、エエかげんにさらせ!」強迫である。
松尾(一彦)の場合は、全然飲まない。この間、コーラの一気飲みをやっているのを見たけど、こっちが気持ち悪くなるな。のどぼとけが一回動く度に、まあるいお腹がプクンとふくれて、可愛いと言えば可愛い。ジロー(大間仁世)が、やっぱり一番飲むねえ。でもあいつっていつも鼻をススってる奴だな。

話は元にもどって、そういうトータルで言えばお酒を飲まない人々の中で、どういうわけかひとりではしゃいでいる奴がいる。今日はもう最後だ、徹底的に飲むぞ−ってなもんで、一人で一升びんを抱いて離さない。やっばり、いっばい飲むと酔っぱらっちまう。その男はもう、浴衣は脱ぐわ、ストリップの真似はするわで大変。暴れたから、よけいアルコールが体中をかけめぐり、ついにダウン。すごい。いびきをかいて眠っちまいやがった。そこはそれ、思いやりあふれんばかりのオフコース。
「何だ。裸で寝てるんじゃないか。風邪でもひいちゃことだ。何か着させてやろう」
 そばに赤いマジックインキが転がっていた。
「じゃあ、これで着させてあげよう。ブヒヒヒ、ヒヒ、ヒヒヒ、あはん」
 おチチにまず、乳バンドを書いた。
「ねえ、それじゃ小さいんじゃない。もっと大きい方が良いわよ」
「そう。これじゃAカップだもんね。それじゃ左のおチチはウルトラDカップにしようかしらん。ウフ」
「………」
「出来た。………。ねえ、上が女ものの下着で、下が男ものなんて、変態じゃない」
「そうよ、そうよ。下も統一してしまいましょう」
 パンツを脱がせた。
 だだっ広い大広間のはぼ中央に死んだように横たわる一人の男。それを囲むように十何人の男たちが立ちつくし、裸電球が揺れ、その灯りが男の男性自身に影をつくる。全員、身じろぎもせず、つばを飲む音だけが聞こえる。全員の眼は男のある一点に注がれる。
「か、かわいい」
「頬ずりしたい」
「ねえ、本当に風邪ひいちゃう。早くパンティはかせてあげましょうよ」
「今日は花柄、パンジーちゃんよ」
 毒々しく赤いインキが塗られていく。
「済んだ」
「なんか、もの足りないわねえ」
「先端も塗っちゃいましょうか」
「でも、誰があれ、持つの」
「気持ち悪いわね。クニャッとしてる」
「あっ、ワリバシがあるわ。さっき、おしんこつまんだやつだけど、いいわよね」
「ホラ、ホーラホラ、ホラ」
 ………、………、………。
 手術(?)が終わって、みんなそれぞれの席に戻った。お膳の囲みのまん中に裸の男が横たわり、それをサカナにまた、ドンチャン騒ぎ。誰かが叫んだ。「タイの生き作りだ!」プハハハハハ。ハハ。ハハハハ。バカだなあ。
 すさまじい花巻の夜は更ける。

 …という話を翌朝、俺はオフコースから聞いた。二日酔いで、頭がガンガンする。
「えへっ。そんなことあったの。見たかったなあ。教えてくれれば良かったのにい」
 なんか、下の方がヒリヒリする。
「残念だなあ。見たかったなあ。………。
 俺、あそこ、ちょっとヒリヒリする。……。…………。………。………。
ちょ、ちょっと、ト、トイレに行きたくなっちゃった。じゃあ、また、あはははは」
 背すじがぞっとした。足が急ぎ足になっているのがわかった。
ドアを閉めた。チャックを下げる手がふるえている。開いた。
ああ!………。………………。………。
赤い。まっ赤だ。ヒドイ、ヒドイ。


 俺は泣いた。どれぐらいトイレの中にいたのかわからない。気が付いてみたら、トイレの外で、みんなが笑いをこらえながら、立っていた。俺が人を信じなくなったのは、この日からだった。

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※イラストは,あんべさん自身によるもの!ウマイ!!

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